建築設計という仕事は自分が設計した建物が出来上がる、というとても単純で純粋な楽しみがある。もう1つは施主や工務店、職人さんなど、知らない人たちと仕事を共にするという喜びもある。さらにもう1つは、今まで行ったこともなければその存在さえ知らなかった場所・土地に行って仕事を行う、という楽しさがある。
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学生のころ「建築家という仕事は旅芸人みたいなものだ」と先生が言っていたが、頷ける。
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現在進行中の福祉施設の現場がある大阪市生野区の小路という町もこの計画が始まって初めて訪れた町だ。小路は生野区の北東、東大阪市との境に位置し、金属加工系の小さな工場をやっている古い長屋が軒を連ねていたりしていかにも下町やなー、という感じのところ。
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ここへ行くには三条から京阪電車に乗って、天満橋を降りて谷町線に乗り換えて谷町九丁目で降りて千日前線に乗り替えて小路駅で降りる、というルート。千日前線はこの計画が始まってから初めて乗ったしその存在も初めて知った。
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訪れるたびになんとなく面白そうな町だなーという感じはしていたものの、なかなか町をぶらつく時間もなかったし、今年の夏は暑かったのでそんな気も起きなかったが、涼しくなって現場も落ち着いてきたこのごろ、少し時間が取れたのでブラブラしてみた。
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まあブラブラと言ってもそこまで暇でも健脚というわけでもないので、現場近くをブラついてみる。
そしたらこんな感じになっていた。
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標準は間口2間の奥行き6間庭付ってところのなかなかしっかりした連棟の町家。大体5軒ぐらいが連なって1つの長屋を形成している。今もきっちり住んでいるものもあれば、住人が去り、廃屋寸前のものもある。
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よくよく見てみると結構ハイテクニック。軒先の鼻隠しは3つ段を付けていて、なかなか重厚な仕上がり。
このあたりの長屋の統一ティールの1つのようだ。
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それからもう1つ統一しているのは2階の壁の意匠。多少の例外はあるが大体タイル張りになっている。
タイルは長屋ごとに違う種類のものを使っていて、「うちの長屋はこのたいるにしようか」などと住人ごとに決めたのかななんて考えるとなかなか楽しい。
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道路側に拡張した町家も多々見られた。拡張型長屋。
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長屋全体で拡張したものもあれば、それを拒んだ住戸もある。埋没保存型。
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混合型。
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まあ2間×6間というのはどちらかと言えば狭いので家族形態に合わせて拡張してしまうのも無理はない。けれども拡張したことで前面道路ののんびりとした感じや、住人各々小さな庭を手入れする楽しみとか、そういった風情というかなんというかがなくなってしまって少し寂しい。
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とはいえこれでもなかなかよく保存できている方で、少し歩けば長屋は取り壊され、新しい住宅が建っていた。時代の流れと言ってしまえば仕方がないけれども、こうやってどこにでもある普通の住宅地が一丁上がり。
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もう少し歩いてみると少し違う型の長屋もあった。平屋型。
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平屋型はさらに狭くなってしまうので、さすがに残っている数が少ない。
こいつはなんとか頑張ってほしいなー。
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内環状線や商店街などの商業ゾーンから離れた専用住居としての使われていた長屋が特に少なくなっていた。長屋であるということ・広さという点、老朽化による耐震性の低下や火災などに対する防災面からみて、住宅としてこのまま暮らしていくのはなんとかなかなか難しいのはよくわかる。淘汰されてしまうのも時間の問題かもしれない。
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1家族が2軒の長屋を所有して住んでいるという形態も少数ではあるが何軒か見られた。そうやって複数所有するというのも面白い解決法だと思う。外部の人間の気楽なところではあるが、この長屋群にはもう少し頑張ってほしいものだ。
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