ローコスト狭小住宅・京都

1000万円で住宅が建てられないか?ということで、京都府八幡市の住宅地にてローコスト住宅の計画が始まった。クライアントは60歳代の画家夫婦2人。「予算と法規の許す限りの大きさ(20坪以上)を確保し、最低限の生活ができればよい」と、いたってシンプルな要望。

ローコスト住宅、狭小住宅などと言われている昨今、1000万円台は珍しくないが、1000万円以内はあまり無いのではないだろうか。またその極限の予算によって、ローコスト狭小住宅=箱型のワンルーム・・などという定型に納まることなく、まったく違った側面から新しい住宅を生み出せるかもしれない。

今回のプロジェクトはクライアントに了承を得て、この小さな住宅がいかにして形になっていくのかをこのブログにて公開していくことになりました。興味のある方は、ちょっと長いかもしれませんが、しばらく続くこの記録を読み進めていただければと思います。

 


■後日談
結果的にこの住宅は延床25坪ほど、工事金額は1250万円(消費税・設計監理料別)で竣工した。1000万円という予算を250万円オーバーしてしまったわけだ。エアコンや床暖房などはおいおい追加する・・ということで1000万円内に納めることは可能ではあったが、60代後半のクライアントが日々安心して健康的に住まう、ということを考えるとそこを削ることはできなかった。
※工事金額は2011年の単価なので、今後の経済の動向によって変動するということも考慮頂きたい。

建物の概要は以下のようになった。

 

構法:木造在来軸組み構法
規模:地上2階建て
延床面積:79.8㎡(24.18坪)
給排水設備:ユニットバス、システムキッチン

空調設備:エアコン

暖房設備:1階基礎に埋設式の床暖房

 

主な外部仕上げ

屋根:ガルバリウム鋼板葺き

外壁:ラスモルタル下地リシン吹付

 

主な内部仕上げ

1階

天井・壁:ベニヤ表し

床:基礎コンクリート金ゴテ押さえ

2階

天井・床:ベニヤ表し

床;杉フローリング、畳、リノリウム張

 

ローコストということで構造・規模は木造の2階建て一択であった。問題は各階に何を割り振るかということだった。クライアントは高齢になっていくため、1階に居住部を持ってきた方が良いのだが、周囲が建て込んでいるうえ南隣が3階建てということもあり、1階の採光条件が厳しいことが読み取れた。結局1階はアトリエ、2階に居住部という構成で、階段はできるだけ緩やかなものにした。1階のアトリエの床はベタ基礎を金ゴテで仕上げることで構造と仕上げを兼ねている。基礎下に床暖房を打ち込むことで、冬は蓄熱体、夏は蓄冷体としての機能を持たせている。

 

内部仕上げがベニヤ張りというのは賛否あると思う。ベニヤ自体は安価であるのでローコスト住宅ではよく見られる仕上げではあるが、本来下地である材料を仕上げで使うというのは実は手間のかかることであり、プラスターボード下地クロス仕上げと金額的な差はあまりない。クライアントが画家ということもあり、どこでも作品展示ができるように、ということもあるのと、クロスなど数ミリの表層材で取り繕うことの違和感からベニヤを採用した。

 

この屋根のとんがり屋根は天井高さをあげて空間をダイナミックに見せるとともに、トップライトで明るさを確保するとともに換気窓を付けることで換気装置としての機能も持たしている。とても小さな建物なので周辺環境に埋没しないように、という思いもある。

 

建物の詳細はこちら→K氏のアトリエ

 

K氏のアトリエは特徴的な形態をしているし内装もベニヤだったりと、小さいながらも尖がった住宅になったわけだが、その後京都市左京内の風致地区内でローコストの住宅・岩倉の家を手掛けることになった。

 

風致地区なのでいわゆる和風住宅をベースにしなければならない。敷地境界線からのセットバック、建物の高さ、2階の壁面後退、屋根勾配、屋根・外壁材の素材・色など、細かい制限の中で設計をまとめなければならない。正直なところ風致地区内で和風というのは意匠的に割高になるのでローコストにはなかなか厳しい。

 

 

しかもこの物件は「建築条件付き物件」であった。

 

皆さんも土地を探してここ良いな、と思ったら「建築条件付き物件」だった、というこいうことがよくあると思う。建築条件付き物件だと施工業者が決まっているし、材料や設備の仕様などもほぼ決まっていて、それ以外の物を使おうと思うとやんわり否定されたり、割高だったり、自由設計と謳っているものの結構制約が多かったり、ましてや建築設計事務所に依頼すること自体難しかったりすることが多い。

 

なので僕たちも建築条件付き物件で新築の相談が来たら、建築条件を外すことを提案することが多い。しかし施工業者は建築条件を付けて利益を上げているため、その条件を外すとなると、施工業者の見込んでいた利益を支払わなければならない。まあ条件なので仕方がないと言えば仕方がないのだが、この金額が意外に高く感じるので、なかなか踏み切れない人が多い。

 

というわけで、建築条件付き物件でことを進めるとなると大体この4つのパターンになると思う。

 

①施工業者に見込み利益金を支払い建築条件を外し、建築設計事務所に依頼する

②建築設計事務所に依頼するのを諦めて設計・施工とも施工業者に依頼する

③物件自体を諦める

④施工業者は変えずに建築設計事務所に依頼する

 

それで今回は④のパターンであった。

 

これは建築事務所側としては結構緊張する。建築条件付き物件でなければ、一般的には数社に工事見積もりを依頼するわけだが、このパターンだと物件を販売している施工業者一択となる。そのため、金額調整が難しくなることが多い。また、施工業者の工事仕様にある程度沿って設計を行う必要も出てくるため、こちらのテイストと合わない場合もある。さらに建築設計事務所とあまり付き合いのない施工業者だったりすると、施工中の意思疎通がなかなか思うようにいかないことがある。

 

なので正直なところ最初は不安ではあったが、やってみると現場監督や大工さんなどの職人さんは腕が良く気も利いた方々で、特に問題はなく工事は進み、無事竣工した。

 

後で聞くと営業の方が気を使って腕の良い大工さんを連れてきてくれたらしい。また、この物件の近くで同業者の物件が同時進行していたこともあり、現場監督もかなりまめに現場に足を運んでくれて、現場監督・大工さんを中心にチームとしてまとまった現場となった。

 

ということで、終わり良ければ・・であるがこれは結構まれなケースだったんじゃないかな、と思う。

 

 

それから、京都市内で鉄骨ビルをバイオリン工房とピアノスタジオ付きの住居にリノベーションしたAビルヂングも非常にローコストであった。

 

 

この案件は厳しい予算ではあったが、クライアントは「予算内に納める、金額の追加は無し」「使い良いバイオリン工房としっかりした防音のピアノスタジオ」「住居部分は必要最低限で十分」と割り切った考えを持っていたため、設計・見積もりはスムースに進んだ。クライアントはバイオリン作家であるが、自動車やバイクの整備もできるなど非常に手の動く方だったので、住居部分のキッチンや工房内の棚などはあっという間に自分で作ってしまった。

 

建物の詳細はこちら→Aビルヂング

 

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